俳句の作り方 炉の俳句
詩の如くちらりと人の炉辺に泣く 京極木へん己陽きょうごくきよう
しのごとく ちらりとひとの ろべになく
炉が冬の季語。
「家の土間や床の一部を方形に切って設けた火を焚くところ。
農村の昔ながらの住宅では、大きい炉を切り薪やほたを燃やした。
そこで煮炊きをしたり暖を取った。」
(俳句歳時記 冬 角川書店編)
昭和21年6月、高浜虚子の疎開先の小諸で
「ホトトギス」600号記念俳句会が盛大に催されました。
翌日、手狭だった虚子の住居の隣の蚕室が改築されました。
俳小屋が出来上がったのです。
それで「俳小屋開き」の句会をすることになりました。
板間の部屋は真ん中に炉が切られ白樺のほたが入れてありました。
そこに虚子の愛弟子の森田愛子がいました。
まるで泣いているかのように物思いにふけっているかのようでした。
美しい病んだ愛子に魅せられる京極。
愛子が俳句を案じている様子が詩のようでした。
詩の如くちらりと人の炉辺に泣く
森田愛子について・・・。
裕福な家庭に育ちます。
20歳の時、肺結核と診断されて俳句が生きがいになります。
虚子が福井県三国の愛子の病床を見舞った帰り虹を見ます。
それがきっかけで二人の虹の相聞句が4年続きます。
愛子が虚子に最期に打った電報に
ニジキエテ スデニナケレド アルゴトシ
虹消えてすでになけれどあるごとし
電報を打った4日後に息を引き取りました。
京極の他の俳句をご紹介します。
枯尾花淋しきことも夢の如
かれおばな さびしきことも ゆめのごと
枯尾花が冬の季語。
「枯れつくした芒ススキのこと。
枯れた穂が風に吹かれてさまもまた趣がある」
(俳句歳時記 冬 角川書店編)
枯れた穂が風に揺れている。
それを見ていると淋しかったことも怒りも喜びもまるで夢のように儚く消えてしまったことよ。
この句には虚しさの感情が一筋流れています。
枯尾花淋しきことも夢の如
京極木へん己陽きょうごくきようは1908年生まれ73歳没。
詩の如くちらりと人の炉辺に泣く せつない句ですが、胸にずしんと響きました。
森田愛子氏の 虹消えてすでになけれどあるごとし この絶世の句も響きます。
伊庭さんのお陰で、素晴らしい句に出会えるのろを有難く思っております。
感謝致します。